「ははっ、お前ホント弱いな」
「もう一回将臣くん!!」
「あぁいいぜ、勝負はキチンとケリをつけなきゃな」
「今度こそ絶対勝つからね」
たかがあっちむいてホイでムキになる単純な幼馴染の相手をしていると、不意に名を呼ばれ肩を叩かれた。
「あの、将臣先輩」
「あ?」
その時、タイミングよくジャンケンに勝った望美の指が将臣の振り向いた方向を指差した。
「「「……」」」
一瞬全員の動きが止まったが、すぐに望美が嬉しそうな声をあげる。
「やったーっ!!私の勝ちね!」
「って、待てよ、今はが呼んだから振り向いただけだろ?」
「それでも勝ちは勝ち!約束どおりこのすももは私が貰うから」
そういうと望美は2人の間にあった今日のおやつでもあるすももを奪って…逃げた。
「ちょ、おいっ!!」
将臣が立ち上がろうとしたが、少女に声をかけられた事を思い出し、頭をかきむしりながらも振り向いた。
「んで、何の用だ」
「…」
「黙ってちゃ分かんねぇだろ?」
「ご、ごめんなさいっ!!」
突然謝罪の言葉と共に頭を下げたを見て、将臣が目を丸くする。
「あ?」
「望美先輩に、ジャンケンが始まったら将臣先輩に声をかけるように頼まれたんです」
「はぁ!?…って事は、今の完全に八百長じゃねぇかっ!!」
「…ごめんなさいっ!!」
とはいえ、目の前の少女は望美に頼まれたのであって、悪意があってやった訳ではない。
一番文句を言いたい相手は、既に安全な場所で手に入れたすももを口にしているはずである。
「あ〜っ…たく、お前も譲と同じで望美に甘すぎだ。少しは突き放せ」
「…はい」
「んじゃ、これでこの件は終わり。な、お前はもうすもも食ったのか?」
「あたし…ですか?いいえ、まだです」
袂に入れておいたすももを取り出して彼に見せると、それを指差してこう言った。
「先に食えよ。で、残りは俺によこせな」
「え?」
「半分こ…しようぜ?」
その言葉を受けて動揺した所為か、が持っていたすももは手からするりと抜け落ちて将臣の足元へと転がっていった。
それを苦笑しつつも拾うと、将臣は湧き水で軽く汚れを落とし、先にかじって半分食べる。
「ほらよ」
放り投げられたすももを少女が受取ったのを確認すると、将臣はその場を離れた。
残された少女は、手の中のすももを見てポツリと呟く。
「ど、どうしよう…」
特に意識するようなことではない。
この世界に来てから、1つの物を分け合う…というのは、生きるために大切なことだと身を持って体感している。
けれど、今、これをくれたのは…憧れの先輩。
そう考えてしまうと、食べかけのすももが…中々口に運べない。
「どぉしよー…」
――― さて、食べるか食べないか…この勝負の結末や如何に?
web拍手再録。
…とはいえ、書いたのは2005年となってます(笑)
手直しで名前変換箇所を追加した上での再録です。
相手を意識してなきゃ、ばくっと食べられるでしょう。
でも、相手を意識していれば…食べかけ、つまりそれを食べると関節キスなわけですから。
ある意味先に食べた物勝ちですね(笑)
…将臣くんは、がぶっと美味しそうに食べるイメージがあります。
そして望美ちゃんは安全な場所で2個目を食べているでしょう。
うちのサイトの白龍の神子はこんなです(おい)